こんにちは!獣医師 伊藤ゆうです。
この記事では「犬と猫の腎臓病」でよく耳にするアイリスについて解説します。
そもそも、アイリスってなんですか?
はい、IRIS(アイリス)とは「研究グループの略称」です。
あなたは「ペットのためにでき限りのことをしてあげたい」と思える、とっても素敵な心構えの持ち主です。ぜひこの記事で、より知識を深めてください!
これから詳しくご説明いたします。
普通の人は「アイリスって何?」とすら思わないものね。
ありがとう。
※本記事は、一般の方に向けてわかりやすく説明することを目的とした記事です。
※本内容は獣医師としての知識と経験に基づいていますが、ペットの健康状態は個々で異なります。具体的な「診断」「治療方針の決定」および「治療」に関しては必ずかかりつけの獣医師とご相談ください。
IRISについて
IRIS(アイリス)とは、「国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Inetrest Society)」の略称になります。
IRISは何をしているグループ?
IRISは、動物の腎臓病に関する研究と治療の向上を目的とした専門組織です。
主に、腎臓病の診断・治療・管理に関する最新の情報、および獣医師が腎疾患のペットに対して最適なケアを行えるようなサポートを提供してくれる国際グループになります。
IRISのガイドライン
IRISは「犬と猫の慢性腎臓病における診断・治療の国際的なガイドライン」を提供しています。
獣医師が犬猫の慢性腎臓病に対して診断・治療をする際もこのガイドラインに沿っていることが多いです。このガイドラインで腎臓病の重症度を示す際に使われるのが「ステージ分類」という言葉です。
このガイドラインはIRISがウェブ上に常に最新のものをアップしています。
実際にはこのように英語で書かれているものになります。
ただ、IIDEXX Laboratories(アイデックス・ラボラトリーズ)という動物検査機器などを提供する会社が、わかりやすいように日本語でまとめたものを一般公開してくれています。
犬猫のCKDにおける「IRISステージ分類」
CKDとは
CKDとは、「慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease)」の略称になります。
簡単に言えば、「腎臓が疲れてしまってきている」状態のことです。
本記事ではCKDの説明は割愛させていただきます。詳しく知りたい方は、ぜひ以下の記事をご参照ください。
CKDの「IRISステージ分類」
IRISのガイドラインには、CKDのステージ分類が示されています。
これは「慢性腎臓病の重症度」を分類したものです。
「ステージ◯です。」と言われたら、基本的にIRISのステージ分類を意味していることがほとんどです。
ステージは全部で4つあり、ステージごとに「治療の大まかな方針」が変わってきます。
かなり最初の状態です。ワンちゃんネコちゃんはなんともないことが多いでしょう。
腎臓の機能が少し落ちてきている段階になります。
かなり腎臓の機能が落ちている段階になります。何かしらの体調不良が出てしまうことが多いです。
腎臓の機能が大幅に落ちている段階です。命に関わる状態にもなりえます。
ステージの決め方
ステージを決める前に、まず「診断」をします。
慢性腎臓病以外の病気であった場合、そもそもステージ分類を行えないからです。
診断のためには問診、身体検査、血液検査を「中心に」行われます。
そこに加えて尿検査、X線検査、超音波検査などを実施します。
これにより、「慢性腎臓病と診断」した上でステージ分類を行います。
ステージ分類において重要になってくるのが「Cre(クレアチニン)」と「SDMA(エスディーエムエー)」です。
どちらも血液検査の項目です。
また、ステージ分類には関わりませんが、腎臓病の時に必ず出てくる項目が「BUN(ビーユーエヌ)」です。
これらの項目を簡単に説明します。
(※詳しい説明はここでは割愛しますが、実は腎臓について「だけ」の項目ではありません)
- Cre(クレアチニン): 筋肉の老廃物であり、腎臓の機能を反映する項目です。
- SDMA(エスディーエムエー): “対象性ジメチルアルギニン”の略称。腎臓病の早期発見に役立ちます。
- BUN(ビーユーエヌ): “尿素窒素”の略称。タンパク質が分解されてできる老廃物です。腎臓の機能を反映する項目です。
さらにIRISステージ分類には「サブステージ」というものが存在します。
サブステージは「尿蛋白/クレアチニン比」と「収縮期血圧」で決まりますが、難しいので割愛させていただきます。
サブステージは主に治療の方針カスタマイズに関わってくる、とだけ覚えてください。
また、もちろんのことステージは進行します。
「今現在」どのような状態なのか?ステージは進んでないのか?
その把握をして、治療方針を組み直すために腎臓病の子は定期的に検査をする必要があります。
「なんでそんなにたくさんの検査が必要なの?」と思ったあなたは、よければ以下の記事をお読みください。
急に色々言わないでっ!わからないニャン…
検査をしないと病気を診断できない
病気を診断できないとステージ分類できない
ステージ分類できないと治療方針が決まらない
そして、ステージの進行もあれば、治療方針の変更もある
これだけわかれば十分です!
それでは各ステージの要点を確認していきましょう!
ステージごとのポイント
各ステージの要点を記載しています。
詳しい説明はそれぞれの記事をご参照ください。
※基準値はあくまで基準値です。安定的かどうか、脱水状況、体型などを加味する必要があります。
IRISステージ1
慢性腎臓病の初期段階です。健康診断をしてSDMAで引っかかったという方が多いと思われます。
特徴としては、基本的に症状がないことです。
腎臓病は早期発見が重要と言われています。
腎臓病であることに落ち込む方もいますが、この段階で発見できて良かったとも考えることができます。
IRISステージ2
Creが1.6~2.8mg/dlの範囲内、あるいはSDMAが18~25μg/dlの範囲内
慢性腎臓病の中期段階です。軽い症状が出ることがあります。
腎臓の機能としては、残り約25%といったところです。
IRISステージ3
Creが2.9~5.0mg/dlの範囲内、あるいはSDMAが26~38μg/dlの範囲内
慢性腎臓病の後期段階です。様々な症状が出ることがあります。
このステージでは急性憎悪(急激に体調が悪くなる)を起こすこともあります。
入院での管理が必要な子もいれば、通院で点滴を定期的にしている方もいるかと思います。
今までよりも、些細なことで体調の変化を起こすであろうことを肝に銘じてください。
IRISステージ4
Creが5.0mg/dl以上、あるいはSDMAが38μg/dl以上
慢性腎臓病の後期段階です。基本的に綱渡り状態です。腎臓の機能としては5%かそれ以下しか残ってません。
状態が急変する可能性は常にあると思ってください。
積極的な治療、頻回の治療が必要になることが多いです。また、治療をしたとしても思うようにいかないことも出てくるでしょう。心構えが重要です。
ちゃんと理解したい「ステージのこと」
自分のステージがわかったよ。
検査結果を見て自分で判断できるようになったニャン!
ちょっと待って!
ご自身だけで状況を正確に・細かく把握するのは、非常に難しく、危険です!
必ず動物病院で獣医師と、実際に猫ちゃんを見ながら治療方針を立てていくことがとても重要であり、鉄則です!
なぜ、獣医師が必要なのか?これからよくある事例をもとに理解していきましょう。
「健康診断で…」
健康診断で血液検査をしたよ。
にゃんはステージ1だったニャン。
にゃんちゃん、年齢は?
他の検査はしましたか?
今年で4歳なのよ。
他の検査はしてないニャン、まだ初期だもの。
定期検診だけ指示されたのよ。
…本当に「慢性腎臓病」?
大前提として、腎臓の数値(BUN,Cre,SDMAなど)が高い=慢性腎臓病ではありません。IRISのガイドラインにも書かれているように、一つの検査で判断することは基本的にできません。
そもそも慢性腎臓病でないのであれば、IRISのステージ分類を行うことはできません。
他の検査をしていないのであれば、「慢性腎臓病である」と決めることはできないはずです。
他の病気である可能性がありえます。
それに、年齢は4歳ですよね?本当に「腎臓が疲れてきている」状態なのでしょうか?
むずかし話、腎臓の機能がそこまで低下していなくても腎臓の数値(BUN,Creなど)が高くなることはあります。
なぜなら、正確には腎臓「だけ」の数値ではありません。
そして実は、腎臓の機能を「示す」数値でもありません。
最後に、本当に定期検診だけで大丈夫ですか?
数値もそこまで高くないし、元気だから一安心…ともいきません。
なぜ、数値が上がっているのでしょうか?若くても数値が上がっているのに、病院では原因は見つからない。
「病名」をつけられなくても、何か猫ちゃんの腎臓に、もしくは猫ちゃん自身に負担がかかっているのではないでしょうか?本当に猫ちゃんは「ストレスなく」過ごしていますか?食事は?環境は?体型は?
数値を見るだけでは不十分、ステージに振り回されても意味がない、本当に重要なのは猫ちゃんを見ることです。
獣医師はたくさんの検査の結果を踏まえた上で「猫ちゃんを見て」います。
安定しているから薬だけ欲しい、数値を見て一安心がどれほど危険なことか、少しでも伝わりましたか?
基準はあくまで基準です。重要なのは「今の猫ちゃんの体調」です。
「Cre(クレアチニン)が2.0mg/dlだからステージ2」は×
クレアチニンが2.0だからステージ2。
気持ち悪いけどまだ大丈夫…
気持ち悪いの?
ステージ3,4の可能性もあるな…
なぜ、ステージ3や4の可能性が出てくるのでしょうか?
あなたは「クレアチニン」についての知識はどれほどありますか?
血液検査において、この項目が高いから危険、低いから危険、基準値内だから大丈夫という単純な考え方は、血液検査において御法度です。
例えばクレアチニンであれば「筋肉」も関係してきます。痩せていれば、数値が低くなることもあります。
さて、あなたの猫ちゃんはどれほどの筋肉量で、それがどれだけ数値に影響を与えているか、答えれますか?
ただ、全てお話するとキリがありません…
わかりやすく、簡潔に、患者様に説明するために
「この数値が基準値だから大丈夫」
「この数値が高いから危ない」といった説明をすることはあります。
あなたの猫ちゃんは、クレアチニンが2.0「だから」ステージ2なのでしょうか?
「一度入院していて…」
むかし入院してたのよ
その時クレアチニンが凄く高くて…
腎臓は回復しないから、にゃんはステージ4なのよ
確かに腎臓は再生しないけど…
今は元気?おしっこは?
今は元気だニャン!
おしっこはたくさん出てるのよ〜
今の腎臓の機能は、どれくらいだろう?
そもそも、どんな病気で、何が起きて、なんのために入院したのか。
腎臓の機能が落ちていても数字が上がらない状況はありえます。
逆に腎臓の機能が残っていても数値が上がる状況だってありえます。
そして先ほども書きましたが、腎数値と言われるものは腎臓の機能を「示した数値」ではありません。腎臓の機能を「反映した数値」です。
IRISのガイドラインには、ステージ分類のために「安定した」クレアチニンあるいはSDMAと書いてあります。
これは「一回では判断できない」や「状況が変わったら再評価が必要」と言ったことを意味します。
しかしもちろん、状況によっては一回で判断することもありえます。
難しいですね。何を言っているのかわかりますか?
…ちなみに、獣医師でも難しい時はあります。
腎臓の機能が実際に今どれくらい残っているのか。獣医師でも正確に把握することは難しいことなのです。
もちろん、それでもいろいろな情報を踏まえて、判断していきます。
獣医師と治療していきましょう
……。難しい…。
その通りです。でも大丈夫。
「サクッと判断できないんだ。」そう感じたのであれば、この記事を読んだ意義は十二分にあります!
あなた一人で考える必要はなく、獣医師と一緒に治療を進めていくことが賢明でしょう。
それでも、あなたの知ろうとする姿勢はとても素晴らしいです!
ぜひ、他の記事にも目を通してみてください。
まとめ
ここまでの内容の要点をまとめました。
ぜひ、以下のことだけでも覚えて帰ってください。
- IRISとは、「国際獣医腎臓病研究グループ」
- ガイドラインがあり、慢性腎臓病の時に4つのステージ分類を行なう
- ステージや数値も重要だが、ペットの今の様子や体調がとても重要
- 解釈や判断は難しく、獣医師と相談しながらの治療が重要
※本記事は、一般の方に向けてわかりやすく説明することを目的とした記事です。
※本内容は獣医師としての知識と経験に基づいていますが、ペットの健康状態は個々で異なります。具体的な「診断」「治療方針の決定」および「治療」に関しては必ずかかりつけの獣医師とご相談ください。
最後に : それでも「不安」が残るあなたに
ここまでお読みいただきありがとうございます!
中には「それでも不安が残る」という方がいるかもしれません。
もしかしたら、ペットのことかもしれません。
もしかしたら、ご自身に関わることかもしれません。
はたまた担当獣医のこともしれないし、動物病院に対して抱えている不安なのかもしれません。
人それぞれでしょう。
どこに相談していいわからない…
そんな時は少しでも僕を頼っていただければ幸いです。
もしかしたら、簡単にお答えできることではないかもしれない。
もしかしたら、ご満足いただけるような回答ではないかもしれない。
それでも、少しでも不安を取り除ける可能性があるのであればと思い、ココナラで相談窓口を設けています。
どうぞ、まずはお気軽にお問い合わせください。
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